スペインの最大手スーパー、メルカドーナが成功している5つの理由
2019.06.18スペインでよく見かけるスーパーの1つにメルカドーナ(Mercadona)があります。スペインに行った人ならお世話になったことがある人も多いでしょう。そのメルカドーナは順調な成長を遂げており、今や「成功」の代名詞になっています。1977年に創業、1981年にフアン・ロイグがCEOに就任しました。当時の店舗は8つで、すべてバレンシアとその周辺にありました。
それから約40年後、そのスーパーは1,627店舗を持ち、85,800人の従業員を抱えるまでに。大手流通業界の指揮をとり、ポルトガル進出の準備を進めています。そしてスペイン国民がスーパーで消費する金額の4分の1がメルカドーナで消費され、2018年の売上は222億3,500万ユーロ(総売上243億500万ユーロ)、レプソル(Repsol)に次いでスペイン第2位です。
その成功の秘訣はどこにあるのでしょうか?
- 顧客中心主義
ロイグは「全体的な品質管理」と呼ばれるモデルを取り入れました。組織ピラミッドをひっくり返して、顧客が中心になるようにしたのです。顧客を満足させることを第一にして、次に従業員、供給者、社会、そして会社という順序で満足させるという方針です。「このときから顧客がボスになっています」と経済記者のハビエル・アルフォンソ氏は著書『Historia de un exito: Mercadona』の中で語っています。
メルカドーナの哲学は、顧客が欲しがるものを提供するということに基づいています。そして、メルカドーナはビジネスや顧客についての深い知識を持っています。「顧客を満足させるには、良い製品、低価格、高品質のサービスが必要で、そのためには従業員を満足させ、さらに安定した関係を通じて製品のメーカーも満足させる必要がある」とアルフォンソ氏。
- ゆっくり着実な店舗の拡張
メルカドーナの成功の秘訣の1つに落ち着いたペースでの店舗の拡張があります。地理的に少しずつ拡張していくのがうまくいくと知っているのです。このやり方を油のシミがじわじわ広がっていく様子になぞらえて、油のシミと呼びました。まずはバレンシアからアンダルシアに進み、その後、地域ごとに展開していきました。
こうすると、ある町に展開する前には、すでにメルカドーナを知っている顧客が未来の顧客に情報を広げてくれています。消費者の口コミを活かした戦略です。新店舗が開店するときには、みんなが待ちきれない状態になっているのです。最近の成功の例を挙げると、2014年のビトリア・ガスティス、2018年の9月のセウタの店舗があります。
- 手頃な価格と自社ブランド
メルカドーナが成功している本当の理由は、手頃な価格で買い物のカートをいっぱいにできると消費者が感じていることでしょう。1つ1つの商品を見れば、一番安いスーパーではないし、商品の数に関してお買い得品が多いわけでもありません。でも、スペインの消費者はいい買い物をできると感じているのです。ロイグの価格戦略は「貧しい人は安いものを買うのを好み、豊かな人は買い物のときに節約したがる」というアイデアに基づいているとアルフォンソ氏は言います。
1993年、期間限定のセールを廃止して、すべての商品を「いつも低価格」というスローガンの下に置くという方針転換が行われました。消費者がメルカドーナでの買い物をお買い得だと感じていることは、「Hacendado」、「Delipus」、「Bosque Verde」などのメルカドーナの自社ブランドとも大きく関係しています。多くのスペイン人がこれらのブランドをメーカーのブランドと同じものだと考えており、スペインで販売されている独自ブランドの半分はメルカドーナのものだそうです。
これらのブランドが店舗に入り始めたのは90年代半ばのことで、時とともに改良され、2008年の経済危機で爆発的に人気が出ました。この年から、ロイグは商品の棚から他の多くのブランドの商品を一掃しました。メルカドーナの一平方メートルあたりの商品の数はアメリカ合衆国のスーパーよりも43%少ないそうです。
- 革新
たとえうまくいっていても、遅れをとらないように常に改革をしなければいけないという姿勢をロイグはとっています。自社ブランドがうまく行かなかった数年の後、大きな方針転換を行い、供給者との関係を変えました。少数の供給者を持つという方針から、特徴のある製品を提供している多くの供給者を持つことにしたのです。
小さな変更としては、しぼりたてのオレンジジュース(店内にオレンジをしぼる機械を設置)や、生ハムをその場でナイフでカットするサービスなどがあり、1年で店舗の3分の1を改装するという大きな投資も行っています。
最近の取り組みとしては、バレンシアのブルハサットの店舗に持ち帰り用家庭料理の「Listo para comer(すぐ食べられる)」という惣菜コーナーを設置したことが挙げられます。この試験的な取り組みは成功をおさめ、2019年中に250店舗にこのコーナーを広げる予定になっています。外出しているとき、消費者には買い物をして帰るか、それとも外食をするかの選択肢があります。さらにファストフードを買って帰るという選択肢もあり、スーパーはこの持ち帰りの部分に参入していこうとしているのです。消費者心理をうまく突いています。
- 従業員の満足感
もう一つの成功の秘訣は従業員の満足感にあるでしょう。最近、メルカドーナは労働組合と新たな合意を結びました。合意の内容には、最低基本月給(額面)を1,300ユーロとし、消費価格指数に合わせて毎年増額すること、育児休暇を5週間から7週間に延長することが含まれています。また、メルカドーナは常に利益の一部を従業員に分配しています。ロイグは2018年の業績の発表で、3億2,500万ユーロを従業員にあてるとしています。
今後の課題
メルカドーナはさらに成長するのでしょうか?専門家は、生鮮食品、インターネットでの販売、惣菜やポルトガル進出などにおいてメルカドーナにはまだ伸びる余地があると見ています。コンサル会社のディレクター、フロレンシオ・ガルシア氏によると「スペイン人はまだ多くの製品をスーパー以外で購入しています。理由は本当に良いものがほしいからです。生鮮食品を買うとき、10ユーロのうち4ユーロは大手流通業者以外で消費されています。果物屋、24時間営業のお店、昔ながらのお店、小さな市場などに行くのです。」
「メルカドーナはこの部分で成長できる余地があります。メルカドーナはオンラインでの取り組みを進めていますが、大きな課題はインターネットで購入された生鮮食品の流通です。なぜなら、ほとんどインターネットで売れていないためです。短期間での配送で問題は解決できるでしょう」
インターネットでの販売はまだ手探りの状態です。メルカドーナは昨年バレンシア州のみを対象としたインターネット販売の新たなチャンネルを作り、月220万ユーロの売上を上げています。夏までにバルセロナにこれを拡大し、以降、他の都市にも拡大していく予定です。そのために、注文に対応するアマゾンのような流通センターの建築を開始しています。
スペインの北東部はメルカドーナがまだ浸透できていない地域です。ガリシアやアストゥリアス、カンタブリア、バスク地方は、ガディス(Gadis)、アリメルカ(Alimerka)、ルパ(Lupa)やエロスキ(Eroski)などのスーパーが支配しています。この地域では競合相手が強いため、メルカドーナの成長は限定的になっています。また、今年メルカドーナは初めての海外進出として、ポルトガルの北部のオポルト市の周辺に10店舗を展開予定です。
他のスーパーと比べて、メルカドーナの売り場は明るくて見やすく、通路も広く通りやすくなっている気がします。こういうところにも顧客中心主義が現れているのでしょう。メルカドーナに行くことがあれば、他のスーパーとの違いを見てみるとおもしろそうです。もちろん、エコバッグをお忘れなく!