スペインの消滅危機言語
2019.09.14
ご存じの通り、スペインではカスティーリャ語の他にも各土地ごとに土着の言語が話されています。カタルーニャ語、ガリシア語、バスク語は1978年から、バレンシア語は1982年から、アラン(アラン渓谷)語は2002年から、それぞれの自治体の公用語と認定され、またアストゥリアス語(bable)、アラゴン語、レオン=アストゥリアス語(asturleonés)も、それぞれ公用語という扱いではありませんが、地域の方言として保護を受けています。
言語はその言語を使う話者がいないと廃れていくのはどこでもそうで、やはりスペイン国内でもこの問題があります。ユネスコは通称アトラスという「世界消滅危機言語地図」を発表していますが、2009年版ではエストレマドゥーラ州のさまざま土着の言語が消滅の危機にあると指摘されています。例えば、この州にはセラディージャという人口2000人程度の小さな町があり、ここの人たちはセラディージャ語(serraillanu)を話していますが、これは今まさに消滅の危機に瀕している言語のひとつ。そして同州には同じ状況の土着言語がさらにたくさんあるというのです。エストレマドゥーラ州の自治州法では、これらの消滅危機言語の保護を約束してはいるものの、それは公式に認められているものではありません。
アラゴン州にも、cheso、chistabino、ayerbenseなどの土着言語があります。エストレマドゥーラとレオンの州境の近辺でも独自の言語を話している町や自治体が点在するほか、さらに他の州境でもそれぞれの州の言語が融合したことで成立した土着言語があります。例えばカンタブリア語(レオン=アストゥリアス語とカスティーリャ語の間)、エオ=ナヴィア語(ガリシア語とエストレマドゥーラ語の間)、リオハ語(アラゴン語、バスク語、レオン=アストゥリアス語の混合)など。日本でも同じ関西弁といえども大阪人が大阪弁を、京都人が京都弁を話すように、スペインでも、似ている方言同士であってもやはりそれぞれが独自のセンスで話しています。
ジブラルタル海峡近くのメリージャという町では、モロッコのリフ山脈で話されている言語タリフィットやチェリルハが流れてきており、イスラム系の言語との融合が起きています。こうした国境で発生しているイスラム系言語のバリエーションは、その話者がなんと400万人以上になると云われています。メリージャからとても近いところにあるセウタでは、アラブ=クチ語とカスティーリャ語の融合のダリヤ語が話されています。
他にもcaló、zincaló、romaní ibéricoと呼ばれるヒターノたちの言葉がイベリア半島にはあります。これらの言葉の話者は65,000〜170,000人と云われ、バスク語を話すバスク地方やカタルーニャ語を話すカタルーニャ地方にも入ってきています。
こうして見ると、スペインはとても言葉に多様性のある国だということがわかりますね。ただ話者が減少して消滅しかかっている方言・言語もそれだけ多いということです。州や自治体が明確な保護政策を打ち立てなければ、この多様性はやがて失われていくでしょう。