スペインの「日替わり定食」誕生秘話
2019.06.01
スペイン旅行の楽しみの1つが食事。豊かなスペイングルメ、現地のレストランでは何を食べよう? とあれこれ悩みますよね〜! 特に「今日は絶対これを食べる!」ものがなければ、何が出てくるのか楽しみな、「Menú del día(日替わり定食)」を注文する人も多いと思います。日本でも日替わり定食は身近なメニュー。
「¿Cuál es el menú del día de hoy?(今日の日替わりは何ですか?)」とカマレロ・カマレラに質問したら、スペイン語会話の良い実践にもなります! ところでスペインで「日替わり定食」の文化はいつから始まったのでしょうか?
実は自然発生的ではなく、時の政府の要請によって始まったもの。「日替わり定食」というと食材を有効に使いたいシェフとリーズナブルに食事をしたい、地元の人たちのためにあるような日常的な皿をイメージしますが、なんとスペインの日替わりについては、1964年、フランコ独裁政権時代にあった「Ministerio de Información y Turismo (情報観光省)」の要請により「Menú turístico(観光メニュー)」をレストランが用意することになったのが元です。
1959年からスペインは「経済安定化計画」を実施。経済発展のため海岸リゾート地の開発に迫られました。外国の観光客を呼び込むために、リーズナブルで大量にこしらえることの可能なメニュー開発が必要となります。だから全てのレストランに「Menú económico(リーズナブルメニュー)」を提供するように要請。さらに料金については行政で金額を設定。とても安価に強いられました。そして必然的に、各地方の名物料理がそのメニューとして出されるようになりました。
強制安価なメニューを実現するためにはあらゆる面でコスト削減をしなくてはなりません。第一、安すぎるのでお店の儲けに繋がりません。いくら名物とはいえ味の質はどんどん下がります。当然、観光客も食べません。だから価格の自由化が発令されるまで、商業的には成功しなかったメニューなのです。
窮地を乗り越えるため、スペインはある外国を参考にしました。「Menú del día」をスペインより1世紀も前からしっかり導入している国。おとなりの国フランス。なになに? フランスでは価格は自由、なるほど。それに日替わりが他のメニューよりも安くても、お店には負担がかからないように設定されている……。
それにしてもフランスでは19世紀から始まり、商業的にも成功している日替わり定食文化なのに、スペインがそれを知らなかったなんて不思議。だから、政府が実施しなかっただけで、実際にはスペイン人も日替わり定食の存在自体は昔から知っていたと云われています。
フランスでも最初、「メニュー」ではなくて「plat du jour(日替わりプレート)」というワンプレートものから始まった文化。パイオニアはピエール・フレイスというシェフで、アメリカで働き帰国後に「Chez Peter’s」というレストランをオープン。ワンプレートながらしっかりした食事を提供。サラダ、ポテト、肉または魚。フランスの昼食では今でも定番です。そしてやがて19〜20世紀にかけて、フランスの他の地方で「menu du jour(日替わり定食)」、つまり前菜やスープ、主菜、デザートを揃えたメニューの提供が始まり、現在に至ります。
フランスのこの発明がヨーロッパの他国に波及。スペインも、20世紀半ばの導入では失敗に終わったものの、価格面でもフランスの前例を参考にして、今では成功に繋がっているというわけなのでした。お店の負担を考えない無茶な政策は不毛ですね。