スペインではなぜ映画は吹き替えられるのか?
2019.06.26映画を見るとき、吹き替えで見ますか?それとも字幕ですか?スペインでは外国の映画やドラマはたいてい吹き替えられています。最近ではデジタル化が進み、少しずつオリジナル音声で見られるものも増えてきましたが、まだ吹き替えの方が圧倒的に多い状態です。日本では外国の映画は吹き替え版と字幕版の両方で放映されることが多いですが、なぜスペインでは基本的に吹き替えなのでしょうか?
これには歴史的な背景と経済的な背景の両方が関係しています。20世紀の初めに有声映画の放映がスペインで始まったとき、多くの人が理解できるように吹き替えが始まりました。映画のオリジナル音声の外国語を理解できる人が少なかったので、吹き替えは多くの人が映画を見られるようにするための理にかなった方法でした。
その後、フランコの独裁が始まり、すべての映画をスペイン語(カスティーリャ語)に吹き替えることが義務付けられました。この法律は1941年に始まり、2つの目的を持っていました。1つ目は映画のような大衆文化を通じてスペイン語を推進することでスペインのナショナリズムを強化すること。もう1つは、映画の中にフランコ体制にとって都合の悪い部分がないかを検閲することでした。
検閲という意味での吹き替えは何年も前に姿を消しましたが、スペイン語を推進するという目的は経済的なものに姿を変えています。吹き替えでは映画やドラマの中のすべての会話を再現するのに時間が必要で費用がかかるため、吹き替えの採算がとれるのは市場が広く観客がたくさんいる場合に限られます。つまりその言語を理解する人が多いほど採算がとれやすいわけです。このため、スペインの他、フランス、イタリア、ドイツ、ロシアなどでは映画は吹き替えられ、一方スカンジナビア諸国では自国の言語の話者の数が少ないため、映画やドラマはオリジナルの言語で放映されています。
吹き替えが主流の中、吹き替え声優の労働条件の改善を求める動きや、吹き替え版だけでなく字幕版の選択肢を求める声が出てきています。吹き替え声優の給料のレベルは20年前から変わらず、しかも正社員として安定した契約で働く声優はほとんどいない状態が続いているそうです。そのため、条件の改善を求めたストが行われたりしています。
吹き替え版だけでなくオリジナル音声で字幕で見たいという観客は増えており、映画やドラマのデジタル化により少しずつ字幕で見られるものも増えてきています。若い年代ではドラマをオリジナル音声でみる人が多くなっており、今後は観客の要望に合わせて、吹き替えか字幕が選べるようになっていくと思われます。吹き替えか字幕かの論争では、よく外国語のレベルが取り上げられますが、外国語のレベルの高低だけで決めるべきものではないでしょうし、吹き替えか字幕かのどちらかしか選択肢がないよりもより多くの選択肢がある方がいいと思います。
洋画を吹き替えか字幕のどちらで見るかの割合を日本で調べてみると、映画館では字幕がわずかに多く、自宅で見る場合は吹き替えの方が多いようですが、最近では字幕より吹き替えを好む人が増えているそうです。吹き替えの方が映画のストーリーに集中できるというのが理由です。一方、俳優さんのオリジナルの音声で見たいという根強い字幕派の声もあります。
スペインに行く機会があって映画好きなら、スペイン語に吹き替えられた映画を見てみてください。声や言語が違うと雰囲気が違って、まるで違う映画を見ている気分になれるかもしれません。