スペイン語版 Wikipediaより
イベリコオオヤマネコ(スペインオオヤマネコとも呼ぶ)は、ネコ科に属する肉食系哺乳類で、イベリア半島にのみ生息する絶滅危惧種です。2013年には、アンダルシア地方の2ヶ所とトレドの1ヶ所の地域でしかその姿が確認されておらず、全国でも300匹ほどしか残っていませんでした。2018年に入ってからは、600匹の群れがアンダルシア地方のドニャーナ国定公園が見られたり、カソルラ山地付近やラ・マンチャ地方のトレドの山奥でも大きな群れが確認されており、おそらくマドリード南部の山にまでも移動している可能性があると見られています。
(外見的特徴)
イベリコオオヤマネコは、そのすらりとした足と黒い房飾りのような尻尾が特徴的な、優美な姿の野生の猫です。ひとたび危険を察知すると、その尻尾を振って警戒します。獲物を捕まえる時にカモフラージュの役目を果たすとんがった耳の先っぽには、筆のような黒い毛が長く生えています。また顎髭も、生まれて1年ほどすると生え始め、年齢を重ねると特に、オスはさらに豊かなそれをたくわえていくのです。毛の色や模様は大きく以下の3種類に分けられます。
Mota fina: 小さな模様が規則的にに体の外側に集まっている。
Mota gruesa A: 肩にかけて大き目の模様がペアになって入っている。
Mota gruesa B: Aタイプと同じほどの模様の大きさですが不規則に散らばっている。
また、比較的体のサイズが小さめで、体重はユーラシア大陸系の山猫の半分ほどの軽さです。オスの平均体重は、12.8kg、メスの平均体重は9.3kgですが、最高20kgほどのオスネコも中にはいる様です。オスとメスの種類が違い、更新世の時代には中央ヨーロッパで行動を共にしていましたが、それはユーラシアヤマネコとカナディアンヤマネコが分かれるずっと以前のことです。イベリコオオヤマネコの祖先はヨーロッパオオヤマネコ、ユーラシアヤマネコは中国オオヤマネコが祖先です。お互いに生息する場所の違いから交わることはありませんでしたが、19世紀に入ってからビレネー山脈やスペイン南部の海岸付近で接触があったと推測されています。
(生息情報)
2006年には、アンダルシアのハエンのシエラ・モレーナ山脈やアンドゥハル山脈でも目撃されました。マドリードの東南、トレド、シウダー・レアルの東南、アルカラス山脈で少数のグループで行動するオオヤマネコのうち大人のメス3匹と、オス2匹、青年期のオスメス5匹と6子猫匹が動物観察カメラによって確認されています。また、20世紀頃に住んでいたオオヤマネコの住処はほとんど住処わっていて2005年にドニャーナ国立公園などで観測されていたオオヤマネコの数はたったの200匹でした。ところが2007年には215匹〜250匹、ラ・マンチャ地方とエクストレマドゥーラ地方で15匹ほどが確認され、2013年〜2014年には330匹、2015年に404匹(うち397匹はアンダルシアに生息)にまで増えていたのです。このことにより、オオヤマネコたちがアンダルシア地方のみならずポルトガルやバダホス、トレド山地へも拡散しているということが判明したのです。
(住まい)
イベリコオオヤマネコは、イベリア半島の限られた山奥や森にしか生息しません。人間が住む世界からかなり離れていないと、ポルトガルのオオヤマネコのようにほぼ絶滅してしまう恐れがあります。最近ポルトガルでは、このオオヤマネコの住まいを取り戻す募金運動がなされているほどです。だいたい、オオヤマネコ一匹の行動範囲は10㎡です。また彼らは400m〜900mまたはそれ以上の高地に住む傾向がありますが、食糧を獲得しに行く際、ユーカリや松の木がある地域には絶対近づかないことがわかっています。理由は、野うさぎが近づかないためだそうです。
(行動範囲)
イベリコオオヤマネコは、自分の縄張りを非常に大切にする動物で、定住を好まず孤立した行動をしばしば取ります。ただ、さかりの時期は非常に社交的に活発になります。また、獲物を獲得するのが得意で、静かに近づき相手が動くと同時に捕獲するほどの素早い動きは、まさにハンターのごとしです。また、ドニャーナ国立公園の調べで、彼らは気温の上昇につれ、休息時間が長くなる傾向にあり、夏のオスは特に夜行活動が活発化することがわかっています。
(食べ物)
イベリコオオヤマネコは、その食事の80%〜90%が野うさぎという肉食系の猫です。他にも小動物なども捕獲します。冬になって野うさぎがいなくなると、小鹿、子羊、アヒルの子などを狙います。
(生殖時期)
さかりの時期は毎年1月〜2月頃で、普段は孤独なヤマネコたちも、この時ばかりはカップルで過ごします。ただし、縄張りをなるべく隠れた場所に確保する習性はそのままです。妊娠期間は65日〜72日間で、赤ちゃんが生まれる時期は3月〜4月頃。1度の出産で1匹〜4匹の赤ちゃんを産みますが、平均的には2匹生まれる場合が多いようです。母親は子が生まれて1ヶ月もすると住まいを変えます。2ヶ月経つと、子供も母親と一緒に狩りに出ます。7ヶ月〜1年の間で大人に近づき、20ヶ月後には一人立ちしなくてはなりません。そして、その後ちゃんと生き残れるネコはお母さん1匹に対して子供が1匹〜2匹だけです。メスは1才になると妊娠できますが、環境や行動範囲によって変わります。例えば、ドニャーナ国立公園のようにまず居住区が決まっていないメスは妊娠しづらいと言われます。メスは約10才頃まで繁殖機能があり、13才が平均寿命と言われています。
(危険性)
イベリコヤマネコの一番の死因は、事故、違法狩りや罠などです。2000年から、ドニャーナでは57匹のネコの死因のうち、24匹が自動車事故でした。アンダルシア地方のマタラスカーニャスの道路では、ヤマネコがよく通る場所があり8匹も事故に遭っています。病気(肺結核)にかかってしまったり、違法狩りや野うさぎの減少でこの希少なヤマネコたちがいなくなっているのです。こうしたことから近年では、ひき逃げされないように通り道を設置したり、彼らの居住範囲付近に建物を建てない、ユーカリや松を植えないなど保護運動もなされています。