スペインでは各地でチーズが作られ、多くのチーズが消費されています。たとえば、ケソ・マンチェゴ(Queso Manchego)は知っている人が多いと思います。でも、ケソ・カブラレス(Queso Cabrales)は日本ではまだあまり知られていないでしょう。青カビ独特の香りと刺激的な味わいが魅力で、好きな人にはたまらないチーズです。
このチーズはスペイン北部のアストゥリアス地方にあるカブラレスで作られています。スペイン北部は「緑のスペイン」とも呼ばれる山や緑が多い地域で、カブラレスはピコス・デ・エウロパ(Picos de Europa)山脈付近に位置しています。この地域の石灰岩の多い山々は長い時間をかけて侵食され、たくさんの洞窟や穴ができ、洞窟は昔から食べ物を保存するために利用されてきました。カブラレスチーズもこの洞窟を使って伝統的な方法で作られており、その外見や風味はこの洞窟の持つ環境と青カビから生まれると言えます。
青カビの胞子が増えるためには高湿度(90%)と8度から12度の気温が必要です。この条件に合う理想的な場所を見つけるのはとても難しく、さらに胞子がチーズにうまくつくように空気の流れも考慮しないといけないそうです。これに適した洞窟が思うような場所にあるとは限りません。適切に熟成させるために頻繁に水で洗い、ひっくり返す作業がチーズ作りでは必要ですが、標高1500メートル以上の場所にある洞窟に、冬には雪の中を歩いて通うこともあります。
この地域の山に洞窟があるようにチーズにも小さな空洞がたくさんあります。そこから、空気やカビが内部に入り、タンパク質分解と脂肪分解が進み、独特の旨味や青緑の模様が作られます。カブラレスチーズの熟成の期間は2ヶ月から10ヶ月。以前はチーズをカエデの葉っぱで包んでいましたが、現在では衛生面からアルミホイルが使われます。また、カブラレスチーズは原産地呼称保護(DOP)を受けており、青カビを人工的に注入せずに洞窟の中で自然に青カビをつけて作られます。同じブルーチーズでも、ロックフォールチーズやゴルゴンゾーラチーズは青カビを注入して作られています。
カブラレスチーズは、もともとは春と夏に3種類の動物、つまり牛、ヤギ、羊のミルクを使用して作られていました。牛乳を主として、ヤギと羊のミルクを混ぜて作られていましたが、現在ではヤギと羊のミルクの割合は非常に少なくなっています。ヤギと羊のミルクが加わることで、より濃厚でクリーミィな味わいが出るという人もいます。
このように伝統的な方法で作られているカブラレスチーズですが、近年では地域外から来た若者たちもチーズ作りに参入し、販路も拡大されてきています。観光客がチーズ作りを見学できるチーズ製造所も出てきました。さらに、より衛生的で高品質のチーズを作る努力が続けられています。オオカミの増加や現状に合わない行政の規制などの問題もありますが、チーズ作りに関わる人は楽観的に見ているようです。
カブラレスのラス・アレナス(Las Arenas)村では毎年8月にカブラレスチーズのコンクールが行われます。今年1位に輝いたのはアランガス(Arangas)村のチーズ製造所のチーズで、オビエドのレストランがその2.5キロのチーズを2万500ユーロで買い上げました。この金額は去年最も高いチーズの金額としてギネスブックに載った1万4300ユーロを大きく超えました。
カブラレスチーズは、アストゥリアス地方で有名なシードラ(りんご酒)など甘いアルコールと合うそうです。また、ソースとして使うのにもよいそうで、肉料理やフライドポテトなどにかけても美味しいそうです。アストゥリアス地方を訪れるときには、是非試してみてください。